クラウドSIMとは~無制限ポケットWiFiの仕組み

2019年よりポケットWiFiサービスの中で突如現れた「クラウドSIM」。ソフトバンク・ドコモ・auの3キャリアの回線ネットワークすべてに対応、かつ日本国内だけでなく海外でも使えるポケットWiFiとして人気が急上昇した。その代表的なサービスがどんなときもWiFiや限界突破WiFiであり、積極的な広告宣伝により、一気に認知を獲得した。

一方で、これらのクラウドSIMのポケットWiFiでは「通信容量完全無制限」を謳いながらも、2020年に入り「通信速度が遅い」「電波が繋がらない」などの問題が頻発。一部サービスでは新規契約の停止に追い込まれている。

そもそもクラウドSIMとは何で、どんなときもWiFiや限界突破WiFiなどの無制限ポケットWiFiはどのような仕組みで実現されているのか?本稿で詳しく解説したい。

参考)

xn--wimax-mt4djct122edgyc.xyz

クラウドSIMとはどんな技術なのか?

通常、スマホ端末やポケットWiFiルーター端末にはSIMカードが挿入され、このSIMカードに記録された契約情報をもとに、データ通信が行える仕組みになっている。このSIMカードを仮想化し、クラウドサーバ側で管理する仕組みがクラウドSIMだ。

このクラウドSIM技術は、uCloudlinkという会社が開発した仕組みで、uCloudlinkが提供するサーバ側でSIMカード情報を管理する仕組みやクラウドSIMに対応した端末を利用して、どんなときもWiFiや限界突破WiFiなどのポケットWiFiサービスは実現されている。

ポケットWiFi各社は、ソフトバンク・ドコモ・auなどの各キャリアからSIMカードを購入し、それをサーバ側に登録、ユーザーはクラウドSIMに対応したポケットWiFiルーター端末を利用、データ通信の度にサーバ側のSIMカード情報を利用、インターネット通信を実現している。

3キャリアの回線を利用可能で、広いエリアで利用可能なポケットWiFi

このようにSIMカードが仮想化されており、またサーバ側にはソフトバンク・ドコモ・auの3キャリアのSIMカード情報が登録・管理されているため、ポケットWiFiユーザーはその時々の通信エリアの状況に応じたSIMカードを利用できる点がクラウドSIMのポケットWiFiの強みだ。

例えば、ソフトバンクauの圏外エリアの場合、ユーザーのポケットWiFiルーター端末にはドコモのSIMカード情報が自動的にダウンロードされ、ドコモの回線ネットワークを利用したデータ通信が可能になる。またドコモ回線の圏外エリアであれば、ソフトバンクSIMカード情報がダウンロードされるなど、広いエリアで柔軟な対応が可能だ。

従来型のポケットWiFiの場合(WiMAXなども含む)、ソフトバンク回線利用、ドコモ回線利用など、特定のキャリアのSIMカードを利用するため、そのキャアリアの対応エリア内でのみ、ポケットWiFiルーターでのインターネット通信が可能だ。その店で、3キャリアの回線すべてへの対応は大きなメリットだ。

クラウドSIMにより、ポケットWiFiとして通信容量無制限まで実現

さらに、どんなときもWiFiや限界突破WiFiクラウドSIMの仕組みを使用し、月間通信容量無制限という形でサービス提供を開始した。これはサーバー側にあるSIMカードは月間通信容量の制限があるものの、それを大量に用意し、またユーザー間で共有することにより、擬似的に通信容量無制限を実現するような形だったようだ。

例えば、クラウドサーバー側に月間100GBのSIMカードを100枚用意し、それを100名のユーザー向けのポケットWiFiサービスで使用するとする。理論的に通信容量は有限だが、通信量の多いユーザーや少ないユーザーが実際にはおり、ユーザー全員が希望する容量の通信を実現できれば「無制限」と言える訳だ。

ユーザー数や通信容量の拡大に応じて、SIMカードの調達が必要

一方で、ポケットWiFi側からするとユーザーにクラウドSIMの制限を悟られないためには、ユーザー数の増加や通信容量の拡大に応じて、適切なSIMカードの調達が必要になる。このSIMカードの調達は各ポケットWiFiサービスが担っているが、ユーザー数の増加に対してSIMカードの調達が間に合わなければ、クラウドSIMとは言えインターネットに接続できないユーザーや速度が制限されるユーザーが生まれることになる。これがクラウドSIMのポケットWiFiの仕組みのようだ。

問題の発生したクラウドSIMのポケットWiFi

上記の通り、クラウドSIM技術を採用したものの、ユーザー数やユーザーによる通信量の増加にあわせて適切なSIMカードをキャリアから調達できなかったことなどにより、2020年3月頃から各ポケットWiFiサービスで通信障害や速度低下などの問題が頻発した。

以下、代表的な事例をいくつか紹介する。

どんなときもWiFiで発生した通信障害

クラウドSIMを採用した無制限ポケットWiFiとして代表的などんなときもWiFiでは、3月に大規模な通信障害が発生した。この原因についてどんなときもWiFiの公式サイトでは以下のような説明がされている。

※通信障害の原因について
本日、弊社が回線提供を受けている、パートナー会社より下記のような回答がございました。
①一部のキャリアからのSIMカードの提供がストップしており、SIMの増強に遅延が生じている。
SIMカードを動かす為の設備の製造および発送が停止、遅延している。

出典:https://support.donnatokimo-wifi.jp/news/news-detail.php?news_id=20200320_2


実際に多くのどんなときもWiFiユーザーに通信障害に伴う速度低下影響などがあったことが、Twitterでの口コミを見ても明らかです。

新規契約の受付停止・新たな制限を導入した限界突破WiFi

限界突破WiFiでも、同様の速度低下などの問題が2020年3月に入り発生。この問題を受け、限界突破WiFiでは無制限のポケットWiFiではなく、下記のような制限のあるサービスで継続提供している。ちなみに、新規の契約申し込みは停止中だ(本稿執筆の2020年5月時点)。

月間のデータ通信量に上限はございませんが、
1日5GBまで高速でご利用頂けます。
(ベストエフォート ダウンロード150Mbpsアップロード50Mbps)
5GBを超えた場合、おおよそ、以下のスピードに変更となります。
下り4.0Mbps / 上り 1.0Mbps
また、1日10GBを超えた通信を行う場合は低速となり128kbpsのスピードとなります。
※通信量は毎日24:00にリセットされます。

出典:https://xmobile.ne.jp/news/1892/


上記以外のクラウドSIMを採用したポケットWiFiでは、どんなときもWiFiや限界突破WiFiと同様、新規の申し込み受付を停止したサービスがある一方で、現在も完全無制限サービスならびに新規契約の受付を継続中のサービスもある。

ただし、クラウドSIMの仕組みやどんなときもWiFiで発生した通信障害の原因を踏まえると、現在継続中のサービスも同様のリスクを孕んでいると考えるべきだろう。

月間通信容量も3日間の通信量制限も無い「完全無制限」のポケットWiFiというのは幻想だったのかも知れない。

参考)

xn--wimax-mt4djct122edgyc.xyz